木材を多用した温かみのある会場で、観客が整然と座って前方の登壇者とスクリーンに注目しており、パタゴニアの環境共生に関するドキュメンタリーフィルムのトークイベントが行われている様子の写真

2月25日(土曜日)、南三陸町役場1階マチドマにて南三陸町を舞台としたトレイルランナーと町民の関わりを描いた「共生のために走る」(パタゴニア・フィルム)のプレミア上映が開催されました。上映後、地域住民やトレイルランナーなどを交え「共生」に想いを馳せるトークショーが開催されました。

イヌワシの生息環境保全に向けた協働を開始

南三陸町の「町の鳥」(シンボルバード)にも指定されているイヌワシ。日本の山の生態系の頂点に君臨するとされながら絶滅の危機に瀕しています。南三陸は日本で3番目にイヌワシの巣が発見された地域であり、入谷地区や戸倉翁倉方面につがいで確認をされていました。しかし、震災後は、その姿はほとんど確認されていません。

白いマスクとネイビーのジャケットを着た鈴木卓也さんが山の風景が映されたスクリーンの前でマイクを持ち、環境や自然保護について語っている様子の写真

「南三陸地域イヌワシ生息環境再生プロジェクト協議会」会長鈴木卓也さん

イヌワシ減少の要因のひとつは、山が適切に管理されなくなったこと。羽を広げると2メートルほどにもなるイヌワシは、木々が生い茂っていると餌となるウサギなどを捕食することができずに暮らすことができなくなってしまいます。

そうした状況にあって、2014年に南三陸ネイチャーセンター友の会と林業経営を行う株式会社佐久がイヌワシの生息環境の保全に向けた取り組みで協働を開始。その後パタゴニア日本支社とも協働を開始しました。

「南三陸なう」ではこれまでもこのプロジェクトについて記事を掲載していますので過去記事もあわせてご覧ください。

プロトレイルランナーが南三陸の火防線プロジェクトに参画

イヌワシの生息環境の保全に向けては、林業的な側面とボランティアベースの2軸で活動が展開。

今回上映されたフィルム「共生のために走る」では、ボランティアベースで活動している「南三陸イヌワシ火防線トレイル」にスポットが当てられています。かつて山火事の延焼防止のために整備されていた火防線を再整備することで、イヌワシの生息場所を取り戻しつつ、トレイルコースとして親しまれることも期待しています。志津川湾を取り囲む分水嶺とほぼ一致する町境約60キロを整備。

2015年からプロジェクトに関わっているプロトレイルランナーの石川弘樹さんほかトレイルランナーが「どのように関わっていけるのか?」と自問自答しながら、地域住民との交流も図りながら、自然を尊み、楽しみ、走る姿がが描かれています。制作されたフィルムは、南三陸での上映を皮切りに全国8ヶ所で上演後、3月9日より公式Youtubeチャンネルにて公開されています。

照明を落とした木造天井の会場で、多くの来場者がスクリーンを静かに見つめながら着席しており、環境共生をテーマにしたパタゴニアのドキュメンタリーフィルム『共生のために走る』の上映が行われている様子の写真

町役場「マチドマ」で上映会は開催された

薄いベージュのセーターを着た佐藤仁町長が、森林を背景に「共生のために走る」と表示されたスクリーンの前でマイクを持って真剣に話している様子の写真

「簡単な道のりではないと思うが力を合わせて南三陸でイヌワシを見たい!」とエールを送った佐藤仁町長

イヌワシと共生できるトレランコースに

上映後のトークイベントに出演した石川さんは「トレイルランのコースとして約60キロのロングトレイルのうち9割以上を山の中を、さらに火防線として整備されている走りやすいコースというのは非常に魅力的。ランナーは自然が好きでやっている人が多いが、山のことを知らない人も多い。南三陸のコースを走ることによって、山のことや海のことを学べる場としても期待できるのではないか。さらにそれがイヌワシを戻すための活動であるというのは魅力的」と期待を込めました。

チェックのシャツに青いダウンベストを重ねた石川さんが、マイクを手に笑顔で話をしている様子の写真

歌津から戸倉まで約60キロの町境の火防線は3分の2ほどが歩けるようになりました。2025年までの全線開通を目指しているそうです。

一方、あまりにも多くのランナーが押しかけてしまえば環境負荷の増大につながってしまうという恐れも。今後のトレイルコースの利用について鈴木卓也さんは「オーバーユースに気をつけて、負荷をかけすぎないことが大切。整備しているコースは、国有林、県有林、民間林など多くが混在している。計山主さんの理解を得つつ、イヌワシと共生できるような山の自然の利活用の仕方を模索していきたい」と話します。

地元の子どもたちが山で遊ぶことを当たり前にしたい

町外からの誘客にも期待されるほか、「地元の子どもたちにも山を知ってほしい」と話すのは林業家の佐藤太一さん。

「山の道を知ることで、避難や救助の道になる。津波が避けて通れないこの町にあって山を知ることは防災につながる。子どもたちに伝えていきたい」と話します。さらに、これまでの活動を振り返って「林業とイヌワシの保全は相入れないもので対立することが多かったと言われているが、この活動をみんなでやることによって山は本当に懐が深くて、いろんな人が共生する場。人間も生物も神様も含めて多様性が育まれる場だなと実感している」と話しました。

パタゴニアのロゴ入りパーカーを着た若い男性がマイクを持って発言し、その隣でネイビーのジャケット姿の男性が真剣な表情で耳を傾けており、環境共生についての意見交換が行われているトークイベント中の様子の写真

「地元の子どもたちが山を自由に走り回って楽しんでいて、その上空を見上げるとイヌワシが羽ばたいている。そんな姿が南三陸町の理想の姿」と締めくくる鈴木卓也さん。残り3分の1ほどとなった火防線トレイルの整備も今後とも継続して実施していく予定です。「ぜひ町民のみなさんにも参加していただいて一緒に楽しんでいければ」と話す石川さん。

この南三陸の空を再びイヌワシが羽ばたく日を楽しみに、これからの展開を注目していきたいと思います。

「共生のために走る」と書かれたフィルムツアーの2種類のポスターが並べて立てかけられており、左側は日本地図とイラスト、右側は森と海岸線の広がる風景写真が使われている展示の様子の写真

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