参加者たちが芝生広場でリクライニングチェアに座りながら談笑し、リラックスした雰囲気で交流している様子の写真

「森 里 海 ひと いのちめぐるまち 南三陸」。そんな南三陸町を舞台としたリトリートツアーが、9月16日(土曜日)〜17日(日曜日)に開催されました。ターゲットは、都心で働く20〜30代の男女。いつもと違う非日常な空間で、都会のコンクリートジャングルにはない大自然や人との繋がりを感じる1泊2日のプログラムとは!?その全貌をお伝えします。

リトリートツアーとは

近年至る所で目にするようになったサウナ。では、リトリートとはなんでしょうか?リトリートは、数日間日常から離れた空間に身を置き、いつもと違った体験を楽しむものとして使われています。また、本来の意味として「撤退」「退却」という軍事用語として使用。リトリートツアーは、千葉県鴨川市、館山市にて開催されてきた、非日常の中で自分自身の感情とじっくり向き合える時間となるよう、サウナや大自然に対話を掛け合わせた心も体も整わせる企画です。
企画の主宰者は田島聡士さん。現在は、館山市の有名サウナ「Sea Sauna Shack」の店長を務めながら、コーチング指導を行っています。

実地経験豊富な田島さん協力の元、一般社団法人南三陸研修センター主催で、南三陸版リトリートツアーを開催。南三陸の新たなコンテンツとなり得るのか、注目です。

海辺の遊歩道で参加者たちが円形に椅子を並べて座り、海と小島を背景に穏やかな時間を共有している様子の写真

海をバックに対話をする参加者の皆さん

Day1.未来につなぐ山の話〜サンセットサウナ

晴天が広がる土曜日。関東や仙台から男女6名が志津川駅に降り立ちました。会社勤めの人、大学で学びに勤しむ人、それぞれ違う環境で生きる者たちの2日間が始まります。
宿泊場所のいりやどに移動し、ツアーの説明が行われた後は参加者の自己紹介タイム。普段行っていること、今回のツアーに対する意気込みなどを共有します。

木造の室内で参加者たちが円になって座り、一人の男性が手振りを交えて話すのを他のメンバーが集中して聞いている様子の写真

リトリートツアーでは、2日間有意義な時間を過ごしていく上で、共通のルールを3つ設けております。

  1. 遮らない
    →今回のツアーでは対話の場を何度か設けております。他の人が話している際は話を遮らず、最後までその人の話を聞ききることを大切にしてください。
  2. なんでもあり
    →今回のツアーでは正解不正解考えなくてOK。なんでもありのスタンスで場に入って楽しんでいきましょう。
  3. 感じたことから始める
    →頭であれこれ考えたことではなく、心の底から湧き上がってくる感情や気持ちから対話してみてください。

挨拶が終わり、向かった先は入谷の山。株式会社佐久の佐藤太一さんが待ち受けていました。

森林の中で佐藤太一さんがオレンジの防護ヘルメットを着用し、身振りを交えて林業体験の説明をしている様子の写真

株式会社佐久の佐藤太一さん

南三陸町は、三方の山が志津川湾を囲むように位置しています。町の境界と分水嶺がほぼ一致し、町に降った雨は森の恵みであるミネラル分を含んで川から海へ。そうして流れてきた栄養豊富な水が志津川湾の豊かな生態系を支える一因となっています。また、湾の水は「やませ」となって山の木を潤すという、いのちがめぐる場所に。
木を適切に管理することで、生態系のバランス維持や土砂災害防止など、森が自然界に与える効果を知りながら、後世に残していく持続可能な林業の在り方など、人の生き方とも重なる大切な考え方を学びました。

森林の中で白いヘルメットをかぶった参加者たちが佐藤太一さんの話を聞きながら木を見上げ、林業の現場を学んでいる様子の写真

その後、サンオーレそではま海水浴場へ移動。ここでは、タイトルにもあるサウナの体験をします。

海辺の広場に設置された木製のサウナ小屋の前で、帽子をかぶった人が準備をしており、近くにはリクライニングチェアと荷物が置かれている写真

サンオーレに佇むサウナ小屋

湯縁笑の丹菊龍也さんは、将来南三陸町で銭湯開業を目論んでおり、その足がかりとして移動式サウナを運営。町の地域おこし協力隊として、サウナと何かを掛け合わせた新しいコンテンツを提供できないかと考え、今回田島さんに依頼し、イベント開催に至りました。
サウナは、新作のサウナ小屋を設置。この日限定で、サンオーレに海を見ながら入れるサウナが現れました。組み立てに悪戦苦闘しながら、なんとか日の入り前に入ることができ、参加者もご満悦の表情。志津川湾を眼前に、自分自身と向き合いながら、参加者同士で言葉を交わしながら、1日を締め括りました。

木の内装のサウナ室の中で、若い男女のグループがリラックスしながら笑顔でピースサインをしている海辺のサウナ体験の写真

サウナを楽しみます

Day2.奪い合いから分かち合いの漁業〜木の可能性

2日目は、朝の散歩からスタートです。参加者の1人から提案いただいた「MOCKAPP(清掃ボランティアをしながら町を歩く観光スタイル)」を実施。この日、入谷地区では打囃子が行われていました。参加者は、道中見つけたゴミを拾いながら、入谷八幡神社へ。地域の行事に触れて、2日目の始まりです。

山間の神社の境内で、赤や青のはっぴを着た人々が太鼓を叩いたり舞を踊ったりしており、たくさんの観客が木々の間から見守っている祭りの写真

力強く披露する舞に魅入る参加者の皆さん

続いては戸倉地区へ移動します。戸倉で漁師をしている阿部和也さんの漁業体験。普段見れない漁師の作業現場に漁船で向かい、海産物や海のことなど様々なお話を聞かせてくれました。

海上の船の上で、帽子を後ろ向きにかぶった阿部和也さんが腕を伸ばして沖の方向を指差しながら、海について説明している写真

脱サラ漁師の阿部和也さん

和也さんは、戸倉の生まれ。一度、上京してサラリーマンをしておりました。しかし、子どもと触れ合う時間が全くない状況に、この環境を変えなければと、地元へ戻り漁師になることを決意。そんな和也さん自身の体験談も、参加者に響いたことでしょう。

船の上でオレンジ色の救命胴衣を着た二人の男性が、阿部和也さんが見せるスマートフォンの画面や海産物を興味深そうに見ている様子の写真

船の上で海のものに興味津々

船から戻り、今度はたみこの海パックの阿部民子さんの紙芝居を傾聴。和也さんのお母さんです。戸倉の牡蠣養殖が震災前後でどのように変化したのかを紙芝居で教えてくれました。

背景には漁業や海産物に関する資料やポスターが貼られているおり、緑色のエプロンを着た女性が室内で紙芝居を持ちながら説明している写真

たみこの海パックの阿部民子さん

ご存知の方も多い「3分の1革命」。震災前、牡蠣の実があまり大きくならず、もっとたくさん取ろうと密植をして、水揚げまで時間もかかるようになり、牡蠣の品質自体にも影響が出るなど、悪循環となっていました。震災で、全ての養殖施設が流され、もうここで漁業をすることは叶わないと誰もが絶望の淵に立たされる状況に。それでも諦めませんでした。これまで各漁師が持っていた筏の数を、一度フラットにして、震災前の3分の1に減らすという誰もやらなかったことに挑戦。その結果、実入りは良くなり、品質も向上しました。水揚げまでの時間も短縮され、労働時間の短縮も可能に。あまり良いイメージのなかった漁師の見え方も変わり、就労を希望する若者も現れるようになりました。奪い合いから分かち合いの漁業。参加者は強く感動されていました。

地域体験施設の入口前で「たみこの海パック」と書かれた看板の前に、案内人の女性と若者たちが笑顔で並び、両手を広げてポーズを取っている集合写真

笑顔でパシャリ

南三陸の美味しいご飯を食べて、今度は入谷地区に移動します。

屋根付きの食事スペースで、女性が海鮮丼を手に笑顔で口に運んでおり、周囲では他の参加者たちも同様に食事を楽しんでいる地域の食体験の写真

美味しい海産物にご満悦の表情

向かった先は、YES工房。会長の大森さんから、木材加工の現場を紹介いただきました。大切に育てられた森。市場に出るまで50年ほどかかりますが、丸太1本でどのくらいの値段になると思いますか?

黒いTシャツに「MINAMI SANRIKU」と書かれたロゴが入った服を着た男性スタッフが、マスク姿で教室の前に立ち、パソコン画面をバックに話をしている写真

YES工房会長の大森さん

およそ5,000円です。林業家さんは、親から孫へと長い時間かけて育てても、活動を続けるだけの資金は得られず。補助金などを活用しながら、山を守ってくれています。そんな林業家さんの活動に少しでも力になれればと、地元産材を活用したものづくりを実践してきたYES工房。ショップボットなどの技術を駆使したり、体験を通して木に触れる機会を作るなど、森と人とをつなげる役割を担っています。
ここでは、この2日間でそれぞれが感じた思いを言葉にして、杉のキーホルダーにするという体験も。キーホルダーになっていく様を、熱心に見入っていました。

木造の室内で複数人の参加者が輪になって、細かい作業に集中しながら手作りの小物を制作しており、カラフルな材料や完成品が周囲に並べられているクラフト体験の写真

1人ひとり思いを言葉にしたキーホルダー作り

循環型社会に取り組む南三陸町では、森・里・海がめぐる活動に積極的に取り組み人がたくさんおります。自然の資源と共鳴して、人の資源も豊富にあることが、この町の1つの魅力。この2日間で参加者も感じ取ったのではないでしょうか。

木造の建物「YES工房」の前で、若者たちが笑顔でポーズを取り、それぞれが体験で作った作品やパンフレットを手に持ち体験工房の集合写真

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今回、企画に協力いただいた田島さんからコメントをいただきました。

  • 質問.今回のツアーに協力いただいたきっかけは?
    「丹菊さんの熱い想いに共感したからです。最初に出会ったのは僕が企画をしていたリトリートツアーに参加してくれた時。リトリートツアーで丹菊さんと関わる中で、南三陸の地域おこし協力隊として想いを持ってシゴトしてることがすごく伝わってきました。サウナや街の特徴を活かして、南三陸にくる人たちの生き方に変化を与えるきっかけをつくりたい。という丹菊さんの熱い想いを体現できるようサポートできたらと思ったことが一番の理由です」
  • 質問.ツアーを開催してみてどうでしたか?
    「林業も漁業も震災を経験した南三陸だからこそ取り組んできたことがあり、その話や体験を通じて参加者の心の中で感じることもたくさんありました。そして感じたことを対話を通じて分かち合う時間をとれたことはとてもいい時間でした。ただ、ツアーにきて、観光名所や街の名産に触れてもらうだけでなく、街の人や参加者同士の対話の時間があることで、より関係性が深まったり自分の中で感じたことが深まり学びに繋がっていくツアーだったんじゃないかと思ってます」
  • 質問.田島さんが思う南三陸町の魅力は?
    「街の人たちが自分から自発的に街を盛り上げようとしたり、南三陸にきてくれた人にお役立ちしようとするスタンスがあったことが印象的でした。まちづくりもビジネスも何か事業を行うとき、損得の関係性になりやすい。ただ南三陸は震災復興の経験もあってか、見返りを求めず貢献しようというスタンスを感じました。ツアー内での林業や漁業体験はもちろん。ツアーの中身を考える際に下見でコミュニケーションをとっていても、街の人たちみんなでおもてなしをしてくれる。ツアーに対しても一緒に盛り上げようと関わってくれる人たちがいて、住んでる人の良さが南三陸の特徴の1つだと感じました」
明るい室内で、若い男性が真剣なまなざしで前方を見つめている田島聡士さんの写真

協力いただいた田島聡士さん

今後について、主催者の丹菊さんは、「まず何より、今回ツアーを開催できたのは、協力してくださった多くの方と、ご参加いただいた方々のおかげです。至らない点も多々ありましたが、この町の資源を活かしながら、サウナを組み合わせたリトリートツアーは、町の良さを引き出しつつ、参加された方の心も変化させていく力があると感じました。より多くの方に町を訪れていただき、町の魅力を感じてもらえるよう、今後も力を入れて取り組んでいきます」

南三陸の新たなコンテンツとなりうるかもしれない、サウナを組み合わせたこの仕掛けの行方に、ぜひご注目ください。

背の高い杉の林の中で、白いヘルメットをかぶった参加者たちが、作業服姿の案内人の話を聞きながら木々を見上げている様子の写真

この記事に関するお問い合わせ先

企画課 企画情報係
〒986-0725 宮城県本吉郡南三陸町志津川字沼田101番地
電話:0226-46-1371
ファックス:0226-46-5348
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