氷とともに入れられた多数の銀色の魚を背景に、青い漁業用合羽を着た吉岡さんが笑顔でカメラに向かって座っている様子の写真

今年度に入り、南三陸町では新たに県内外から男女5名の地域おこし協力隊が着任しました。そのうち、最年少の20歳で地域おこし協力隊になったのが京都府出身の吉岡優泰(まさひろ)さんです。吉岡さんが目指すのは養殖銀鮭でASC国際認証を取得すること。子どもの頃から将来は漁業に携わりたいと夢見ていた吉岡さん。その夢を実現すべく、この町で一歩ずつ歩き出した吉岡さんにお話を伺いました。

南三陸は銀鮭養殖の発祥の地

南三陸町(旧志津川町)は銀鮭養殖発祥の地です。1975年に試験的に養殖が始まり、その後、全国へと展開。現在も南三陸町を中心とした宮城県が国内での養殖の中心となっており、国内で流通している銀鮭の約9割が宮城県産です。南三陸町の銀鮭の特徴は生のままおいしく食べられること。配合飼料による徹底した品質管理をしているため、寄生虫の感染確率が極めて低く、生でも安心して食べられます。こだわりのエサで育った銀鮭は、臭みが無く、脂が程よくのってとろける食感。旬の時期には町内の飲食店でも銀鮭を使ったメニューが並び、地域の人や観光客に喜ばれています。

白いプラスチックのコンテナに大量のサケが氷とともにぎっしり詰められて並んでおり、新鮮な魚が水揚げされた直後の状態を示している様子の写真

旬は4月から7月にかけて。漁の終盤を迎えた7月下旬、この日の水揚げ量は65トン以上!

色とりどりのカッパを着た作業員たちが、ベルトコンベアに流れてくるサケを手作業で選別しており、奥には指示を出す人物が立っている、水産加工場内の作業風景の写真

選別作業のようす。大きいものだと1匹5キロもの重さ。

子どもの頃から漁師が夢だった

この銀鮭でASC認証を取得しようというプロジェクトに挑むのが吉岡優泰さんです。吉岡さんは子どもの頃から釣りが大好きで、いつかは漁師のように海や魚に携わる職業につきたいという夢を持っていたそうです。高校卒業後、夢を叶えるために漁協職員を養成する全国漁業協同組合学校(千葉県柏市)に入学。在学中は北海道から長崎まで、全国各地の現場に足を運び、さまざまな漁業を学んできました。南三陸町は吉岡さんの研修の受け入れ先のひとつ。町で銀鮭の養殖について学び、その縁がきっかけとなって今回の地域おこし協力隊につながりました。今後は宮城県漁業協同組合志津川支所に所属し、養殖銀鮭のASC認証取得に向けて尽力します。

船の上で青い合羽を着た吉岡さんが、コンテナにいっぱい入ったサケの上に身を乗り出して、ベルトのような道具を使って荷下ろしの準備をしている様子の写真

まずは現場を知ることからと、毎日漁師と一緒に漁に出ている吉岡さん

ミッションは養殖銀鮭でASC国際認証を取得すること

ASC認証は、国際機関であるASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)により、自然や資源保護に配慮しつつ、安全で持続可能な養殖事業を営んでいることを認める国際認証制度です。銀鮭養殖発祥の地として、養殖の継続、発展のためASC認証を取得し、銀鮭のさらなるブランド化、販路拡大や販売価格の向上を目指し、すでにASC認証を取得している牡蠣と合わせてPRを行うことで、町の水産業の活性化につなげるのが狙いです。協力隊として、吉岡さんは今後、認証に必要な調査や書類の作成、海外機関とのやり取りなど幅広く活動します。

そんな吉岡さんに、ASC認証取得に向けての意気込みなどを聞きました。

吉岡優泰さんにインタビュー

―南三陸に移住を決めたきっかけ

「学校でいろんな漁業を学ぶうちに養殖に興味を持ちました。去年の夏、南三陸で1週間、銀鮭の養殖を学ばせてもらったときに、改めて養殖業の魅力と地域の人の温かさ、恵まれた自然環境に惹かれました。そして南三陸で漁業に携わりたいと漁協の支所長・阿部富士夫さんに直談判したんです。その時、ちょうど銀鮭でASC認証の取得を目指していて、そのための地域おこし協力隊を募集していると聞きました。ASC認証について自分で調べるうちに、これは挑戦してみる価値がある、ぜひやってみたい!と思うようになり、応募しました。」

―力を入れて取り組みたいことは?

「もちろん養殖銀鮭でASC認証を取ることです。そして、多くの人にASC認証を知ってもらい、ブランド価値をあげることです。今、自分で調べただけでも認証取得まではかなり厳しい道のりです。せっかく大変な思いをして認証を取得しても消費者や社会がその価値に気づいていなければ、意味がありません。取得後に販路拡大や販売価格向上につながるよう、ASC認証の認知度を上げる取り組みにも力を入れていきたいです。」

―先輩方に囲まれてプロジェクトを引っ張っていくのは大変では?

「プレッシャーしかありません(笑)でも、やりたいと思ったのも、やると決めたのも自分なので、ひたすら頑張るしかないです。幸い、漁協の先輩や上司、漁師のみなさんが優しくしてくれるし、絶対無理だっていう人は一人もいません。頑張れよって応援してくれています。」

―休みの日は何をして過ごしている?

漁があるときは夜中の1時半に起きて3時に漁港に着いて、漁に出て、仕事が終わるのがだいたい午前10時。慣れるまでは家に帰ると爆睡でした。日曜日は休みなので、休みの日くらいのんびり寝たいと思うのですが、大好きな釣りに誘われるとついつい早起きして行っちゃうんですよね。(笑)先日も上司に誘われて、ヒラメ釣りに行ってきました!釣った魚をこれまではさばくことしかできず、料理らしい料理もできなかったんですが、最近では煮魚や揚げ物を覚えて、魚料理のスキルを磨いています。

青い合羽を着て黒い帽子をかぶった吉岡さんが船上で笑顔を浮かべており、後方には漁で使用される機材が見える、作業の合間の表情を捉えた写真

認証取得の先に目指すもの

南三陸に移住してから毎日のように漁場に出て、先輩漁師に教わりながら銀鮭漁をしてきた吉岡さん。7月で漁はひと段落、今後について聞くと「とにかくやることが山積み。養殖場の水質調査、エサの作り方やエサに含まれる魚の産地や捕り方、稚魚の育て方や尾数管理、漁師の労働環境などおびただしい数の厳しい条件をクリアする必要があります。これまで半世紀近く続いた養殖の歴史、そのやり方を大きく変えなくてはならないことも出てくるかもしれません。超えるべき壁がいくつなのか、それがどれくらいの高さなのか、これからわかっていくんだと思いますが、絶対に中途半端には終わらせません。どんなに時間がかかっても、諦めずに目の前の壁を超えてみせます!」と力強く答えてくれました。

さらに、吉岡さんは認証取得後の夢について、「僕がこの難しいプロジェクトに挑戦しようと思った理由のひとつに、ASC認証が日本の水産物への風評被害を払拭してくれると確信しているからです。福島第一原子力発電所の廃炉作業に伴う処理水をめぐっては、いくら日本の基準で大丈夫といっても、海外からはまだまだ慎重の声が聞かれます。でも世界基準で大丈夫って言われたら、少しは変わるんじゃないかって。世界が認めた銀鮭になれば輸出も夢じゃないかもって思っています。海外のホテルで南三陸の銀鮭が出されたら、なんか、いいじゃないですか。」

と笑顔で話してくれました。中途半端が嫌いで、何年かかっても絶対やり遂げる!と並々ならぬ強い意志を見せてくれた吉岡さん、今後の活躍に期待がかかります。

港に停泊した漁船を背景に、青い前掛けと黒いシャツ姿の若い男性が防波堤の上で満面の笑顔を見せて立っており、曇り空の下で活気ある港町の雰囲気が伝わる写真

地域おこし協力隊

地域おこし協力隊は、地方自治体から委嘱を受け、地域の魅力発信や特産品の開発、住民の生活支援など、さまざまな方向から地域を活性化させる活動に取り組む都市部からの移住者です。南三陸町では隊員が地域の生活になじむことができるよう、また起業・事業継承に向けたノウハウを学びながら活動に取り組めるよう、町内で活動している事業者・団体が隊員を雇用する形をとっています。

この記事に関するお問い合わせ先

企画課 企画情報係
〒986-0725 宮城県本吉郡南三陸町志津川字沼田101番地
電話:0226-46-1371
ファックス:0226-46-5348
本ページに関するお問い合わせ