作業マットの上に小さな紫色のアジサイの花びらが大量に並べられ、奥にはそれらを組み合わせて作られた立体的なアジサイの花と葉のパーツがいくつも置かれている、繊細な手作りクラフトの制作途中を写した写真

オクトパス君グッズで知られる「入谷YES工房」には、「cocoon」というまゆ玉を素材にしたハンドメイドクラフトのブランドがあります。かつて入谷で盛んだった養蚕、そしてまゆ細工文化は、今も受け継がれているのです。

かつて入谷の絹は世界一だった…!

こんにちは! ライターの小島まき子です。オクトパス君が大好きで、南三陸を訪れるたびに「入谷YES工房」に立ち寄るのですが、最近は「cocoon」のまゆクラフト製品もお気に入りです。ブローチやマスコットなど、まゆ玉を使ったハンドメイトクラフトに出合ったのは、入谷YES工房が初めて。めずらしいこともあり、どうして入谷でまゆクラフトなのか気になって、工房スタッフの方々に聞いてみたところ…。

「かつて南三陸で、特にここ入谷地区では、養蚕が盛んだったのです。その歴史・文化が、まゆ細工やまゆクラフトという形で今も息づいているのです」と、「cocoon」チームの牧野知香さんが教えてくれました。「『ひころの里』にある『シルク館』に行くと、入谷の養蚕の歴史がよくわかりますよ」と言われ、さっそく行ってみることに…。入谷の養蚕業について学んできました。

ガラスの自動ドアの上に「シルク館」という看板がかかった入口付近を写したシルク館の外観写真

ひころの里の敷地内にあるシルク館へ

薄いベージュ色の壁とカーペット敷きの床を持つ室内で、左側にはガラスケースの中に手芸品や造花が展示され、中央には展示室の入口がありその奥に着物や織物が飾られ、右手前にはテレビとビデオデッキのセットが置かれているが、入口付近に撮影禁止を示す赤い斜線のマークが掲示されている写真

館内には養蚕に関わる器具や各種資料が展示されており、養蚕の歴史を学ぶことができる

入谷の養蚕の歴史は江戸時代にさかのぼります。その昔、入谷では砂金がたくさん採れて、村はたいへん潤っていました。しかし、やがて砂金は掘り尽くされ、人々は貧困にあえぐように…。そんななか立ち上がったのが、山内甚之丞という若者でした。

当時、伊達藩では絹織物の人気が高く、藩内全域で養蚕業を発展させようとしていました。それを知った甚之丞は、人々の生活を立て直すために養蚕業を広めようと、養蚕技術を学びに福島へ。最新の技術を身につけた甚之丞は、殿様の許可を得て入谷で養蚕を始めました。周辺の地域にも桑の栽培や蚕の飼育について伝授し、養蚕は本吉郡全体に広まっていったのです。

展示館にある案内パネルで、江戸時代中期に養蚕の発展に尽力した山内甚之丞という人物とその活動について、彼の遺訓や民家蚕業記(みんかさんぎょうき)などの資料とともに紹介されている展示の様子を写した写真

入谷に養蚕を広めた山内甚之丞の功績を紹介

気候が養蚕に適しており、生糸を紡ぐのに必要な水が豊富だったため、入谷では質のよい絹が生産されました。「金華山」と名付けられた入谷の絹は、伊達藩最高の品質と認められ、全国的に有名な仙台平織袴地を生み出しました。さらに、入谷の絹は京都の西陣織にも使われるように。伊達藩の絹織業はますます盛んになりました。

日本の伝統的な和服である着物と袴がガラスケースの中に展示されている写真

「金華山」で織られた仙台平の袴も展示されている

やがて生糸は外国にも輸出されるように。明治21(1888)年には「旭製糸株式会社」が設立され、宮城県で初めての近代的な機械を備えた大規模な製糸工場が志津川に誕生しました。そして明治33(1900)年にパリで開かれた万国博覧会で、「金華山」はグランプリを獲得。世界一の絹と認められたのです。

しかしその後、産業の変化などにより、本吉郡の養蚕は徐々に衰退。旭製糸株式会社も昭和12(1937)年に廃業となりました。

旭製糸株式会社の誕生について解説した展示パネルで、パネル上部に日本語の詳細な説明文があり、中央に煙を上げる工場のモノクロ写真と工場内部で働く人々の写真、右側に「ASAHIKAN SEISHI」と記された絹織物のラベル風の画像が配置されているほか、パネルの前にはガラスケースに収められた複数の古い資料や写真が並んでいる展示室の様子を写した写真

旭製糸株式会社の工場でつくられた生糸は世界で高く評価された

養蚕の歴史と文化をまゆクラフトで伝える。

養蚕業から生まれたのが、まゆ細工文化です。訪れたシルク館には、まゆで作った色とりどりの花や植木、ブローチやコサージュなどのアクセサリーなどが展示されていました。一瞬ほんとうの花に見間違えそうなほど精巧につくられたものも。年に一度開かれる「シルクフェスタ」には、愛好家たちが集まるそうです。

色とりどりの造花が鉢植えにされて並べられている写真

シルク館で展示・販売されているまゆ細工作品の数々

淡いピンク色から白色にかけての小さな花の形をした繊細な造花が緑色の箱の中にたくさん並べられている写真

パーツとなる花びら1枚1枚をていねいに作っていく

シルク館から入谷YES工房に戻ると、ちょうど牧野さんがあじさいブローチを作っていました。まゆ玉からどうやってあじさいを作るのか見せてもらうことに。「まず、まゆ玉を大きさや形によって選別し、用途ごとに分けます。そして洗って、水に浸して、乾かしてから、作るものに合った色に染めます」と牧野さんが工程を説明してくれます。「あじさいの場合は、まゆ玉を切り開いて、花びらの金型で抜きます。それから、こてで熱を加えて花びらを丸くして、穴を開けて芯を通し、ボンドで土台に貼り付けていきます」。細かい作業が多く、かなり手間がかかるのだと知り、驚きました。

机の上で女性が細かい手作業で紫色のアジサイの花の形を作っている写真

あじさいの花びらを土台に貼り付けていく牧野さん

さまざまな色に染められたまゆ玉が透明なケース棚の中に納められている写真

さまざまな色に染められたまゆ玉のカラーバリエーション

青、紫、ピンク色のあじさいブローチがそれぞれ箱に入って置かれている写真

やさしい色合いの「あじさいブローチ」はYES工房の人気商品

「入谷の養蚕の歴史とまゆ細工文化を継承し、新しい形で発信したいと思っています。私たちのまゆクラフトを通して、南三陸の歴史や文化、まゆのことを多くの人に知ってもらえたら…。そのためにも、魅力的な商品を生み出していきたいです」と牧野さんは話します。

世界を結んだ絹の道・シルクロードが入谷にもつながっていたとは…! まゆ人形に、歴史とロマンを感じました。

木製の六つの仕切りがある飾り棚に、フェルトや布で作られた小さな鳥の人形や家のミニチュアなどが並べられている写真

愛らしいまゆ玉人形。いろいろなアレンジができるので、作り手の創作意欲がかき立てられる

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