囲炉裏の周りに数人が座り、手作業で藁を編んでいる様子が写っている写真
囲炉裏の火にかけられた鉄瓶から湯気が立ち上る様子と、右手に火箸を持って炭を調整している人の手元が写っている写真

今日は、農家の一年の仕事始めの日。
この地域では「農はだて」と呼ぶ。
「はだて」とはこの地域の言葉で「はじめ」という意味。

「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくね」
囲炉裏に灯った赤い火に導かれるように、そこには自然と輪ができる。

囲炉裏を囲んで数人が座り、中央の火に鉄瓶をかけて湯を沸かしている様子が写っている写真

一年のはじまり。
まず行われるのは、その年の米の作付けの占いだ。

3人の女性が木製の箱を囲み、そのうちの1人が箱の中に白い餅を入れている様子が写っている写真

昨年末について、うら返した臼の下で2週間ほど眠っていた3つの餅。
その一つひとつを裏返していく。
1つ目のもちは「早稲(わせ)」。2つ目は「中稲(なかて)」。3つ目は「晩稲(おくて)」。そこに米粒がついていればいるほど豊作とのこと。

今年の稲作の占いの結果、最も豊作とされるのは「晩稲」。ここから、一年の農作業は始まっていく。

そして行われるのが、「わらない」だ。

昨年手塩にかけて育てた、稲。それを支えていたわらを活用する。

束ねられた藁が床の上に整然と置かれている写真

乾燥したわらを槌で叩く、「わら打ち」。

打つことによって加工しやすいように、やわらかくなる。

人が木槌を使って藁を叩いている作業の様子が写っている写真
女性が木槌を振り上げ藁を叩いている作業の様子を写した写真

わら縄を使用する機会は今ではぐっと減ってしまった。

しかし、この土地では、かつて、草履もむしろも、米俵も。わら縄は生活の必需品だった。
冬仕事といえば、わらない。この一年間で使用するわら縄を冬の間にすべてこしらえていたという。

囲炉裏の周りに5人の年配の女性が座り、手作業で藁を編んでいる様子が写っている写真

「子どものときは朝早くから夜までお手伝いしたっちゃな」
「今は年に1回でも、身体が覚えてるんだね」

そう話しながら手際よく、縄をなっていく。

2つのわら束を両手でねじりながら、かみ合わせていく。
ねじりが戻ろうとする力で、2つのわらが絡み合い、しっかりとした縄になる。

数人が集まって藁を編んでいる作業の様子が写っている写真
年配の人物が木の床に座り、手作業でわらをねじり縄を作っている手元を写した写真

モノが十分になかった時代から、手仕事で暮らしを支えてきた。

発展の昭和、激動の平成を生き抜いてきたその手。

ただひたすらに縄をなうその手は、彼女たちの人生の深さを表している。

二人の人物が床に座りながら手作業で藁を編んでいる写真

昨年、農家さんが手塩にかけて育てたお米。
そのお米は今、わたしたちの食を支えてくれている。
そして、稲わらは生活の道具となって暮らしを支える。

木製のテーブルの上に、複数の藁で編み込まれた縄が整然と並べられている写真
暗い背景の前で、青いニット帽を被った年配の女性が手作業で藁を編んでいる様子が写っている写真
藁で編まれた縄が丸く巻かれて床の上に置かれている写真

無駄なものはなに一つない。
そんなことを、この正月行事は今に伝えているのかもしれない。

今年も豊作となりますように―。

寒風がしみる帰り道、この一年の豊饒を祈っていた。

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