化粧品棚の前に立つ、両手を前で軽く組んで正面を見つめている薄紫色のカーディガンを着た女性をアップで撮影した写真

南三陸に生きる⼈を巡り、⼀巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第8弾は、南三陸で唯一の美容品店「おしゃれ空間Lips」を営む佐藤由紀さん。さんさん商店街の移転という転機の今、その想いに迫ります。

地元に愛される美容品店で働いた26年間

2012年2月。大粒の雪が舞う中、震災の傷跡癒えぬ志津川地区に「さんさん商店街」が誕生した。佐藤由紀さんもその商店街で大きな一歩を踏み出した一人だ。

佐藤さんは地元南三陸の高校を卒業後、憧れでもあった美容品店で働き始めた。以来26年間、地元のお客さまに愛されながら、販売員として働いていた。

しかし、「好きなことを仕事にできていた」という日常は一瞬で崩れていった。東日本大震災による津波でお店は流出。途方にくれる間も無く、怒涛の日々がはじまった。

せわしない日々のなかで聞こえてきたのは、かつて常連だったお客さまの「お店、あなたがやったらいいじゃない」という声。

「経営の知識もない自分ができるわけないって思っていました。それでも、町から化粧品屋さんもなくなって、みんな買う場所もなくて大変だなって思いはあったんです」

青空が広がり、周囲を山や木々に囲まれた背景には仮設のような平屋の商店が並んでおり、手前に「南三陸さんさん商店街」と書かれた木製のアーチ型の看板が設置された商店街の入口の写真

引用:南三陸さんさん商店街ウェブサイト

「おしゃれ空間 Lips」の誕生

周りの人の後押しもあり、商店街への参加を決意した。「自分にできることはなにか」を考え抜いた末の結論だった。

「当時は落ち着いて座っておしゃべりできる場所もなかった。化粧品を売るだけのお店じゃなくて、お茶っこしながらリラックスできるような場所にしたかった」

震災によってお店を続けることができなかった店主の想いも引き継ぎ、震災後では町内で唯一となる美容品店「おしゃれ空間 Lips」が誕生した。

震災後、お客さま同士がこのお店でしばらくぶりに再会したということも多かったという。

「若い人はもちろん、80歳になっても、90歳になってもおしゃれしたいって思うんですよね。自分のことを必要としてくれたり、『ここに来ると癒される』という言葉を聞くとお店を始めてよかったなって思います」

佐藤さんのお店が支持される秘訣は、佐藤さんの確かな実力にもある。全国の化粧品のプロが、そのメークテクニックを競うコンテスト「NCCコスメティック甲子園 2016」にて東北エリア予選を勝ち抜き、全国大会に出場。そのプロの技で南三陸の女性に、お化粧という魔法をかけてきた。

ピンクや白の化粧品が並んだピンクの花束の造花が飾られた化粧品棚の前で、黒い服を着た女性が「乗車券・新幹線特急券 東北支社から資生堂美容技術専門学校」と書かれた大きなパネルを両手で掲げている写真

東北エリアの代表はわずか2名。確かな技術が認められた瞬間だ(写真提供:佐藤由紀さん)

さんさん商店街の移転…迫られた選択

無我夢中で駆け抜けてきた5年間。佐藤さんは2016年に、大きな選択を迫られることになった。それは仮設のさんさん商店街の移転。本設となる商店街へ参加するかどうか。心は揺らいでいた。経営的に決して潤沢というわけではない。商いの難しさを痛感した5年間でもあった。

「自信なんかまったくもてなくて、もうずっと迷っていました。本設の商店街に出店するか、辞めるかの二択。不安なことばかりが頭をよぎっていました」

そんななか思い出していたのは、5年間で来てくれたお客さま一人一人の表情だった。「次はどうするの?」って心配して声をかけてくれる常連さんもたくさんいた。

「お化粧をしてあげると、表情がぱっと明るくなって喜んで帰っていくようすが大好きで。結婚式や成人式、人生の節目の大事なイベントでお化粧を任せてもらえたり。そういう夢のある仕事をできることは幸せなんだなって」

そんなことを考えながら、佐藤さんの心には「辞めたくない」という思いが強くなっていった。

「元気と笑顔と美しさのお手伝い」

店を始めるときに考え抜いたコンセプトは、5年経った今も色褪せることはない。そのことに気づいたとき、彼女のなかで辞めるという選択はなくなっていた。

化粧品のボトルが置かれている白い台の上に、白と銀で構成されている数本の美容機器が整然と並べられている写真

フェイシャルエステも利用可能な充実の設備

新しい南三陸でこれからも

本設となる「さんさん商店街」は、2017年3月3日オープン予定。そこには「おしゃれ空間 Lips」の名前も入っている。

進むか、退くか。右か、左か。人生は選択の連続だ。どの道を進もうとも不安は尽きることがない。それでも誠実に、目の前のことをひとつずつひとつずつ、ていねいにこなしていくことで、道は作られていく。そんなことを佐藤さんは教えてくれているようだ。

今はまだ復興途上の南三陸町。「新しい商店街ができて、町がひとつずつできていくなかで、この町にお化粧して出かけていくような場所が増えたらいいな」と佐藤さんは話す。

佐藤さんが描く未来が実現したとき、この町は今以上に、笑顔にあふれ、活気のある町となっている。そのことを願わずにはいられない。

太陽の光が差し込む広い空の下、背景には海や山が広がり、駐車スペースも完備された両側に木造の建物が並び、中央の通路に多くの人々が歩いている、再建された商業施設の完成予想図の画像

写真提供:隈研吾事務所

インフォメーション

おしゃれ空間 Lips

  • 営業時間 10時-19時
  • 定休日 不定休
  • 電話番号 0226-29-6627
  • メール

ホームページ

(注意)さんさん商店街閉鎖期間は、志津川地区のさんたろう館にて臨時営業を行う。詳細はお問い合わせを。

この記事に関するお問い合わせ先

企画課 企画情報係
〒986-0725 宮城県本吉郡南三陸町志津川字沼田101番地
電話:0226-46-1371
ファックス:0226-46-5348
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