キャップをかぶった井尻さんが、黄色や赤の提灯が灯った「サクサク串カツいじり」と手書きで書かれた黄色の看板が立っている夜の店先で前で笑顔で立っている写真

南三陸に生きる⼈を巡り、⼀巡りしていく連載企画「南三陸ひとめぐり」。第五弾は、歌津地区で串カツ店を営む井尻一典さん。音楽フェスの実行委員長も務める井尻さんの素顔に迫ります。

南三陸に突如現れた「ルイーダの酒場」

ある人は、その店を「まるでルイーダの酒場だ」と言う。

ゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する「ルイーダの酒場」は、仲間たちが出会い、そして別れの場所となる酒場だ。

2014年12月25日、突如として南三陸町歌津にできた一軒のお店。それが「串カツいじり」。わずか2年足らずで、まるでドラゴンクエストのそれのように地元の若者、漁師、工事現場の作業員、移住者と多くの人々が集う場になっている。

店主を務めるのは大阪出身・井尻一典さん、29歳。井尻さんと南三陸町の出会いは2014年2月のこと。当時、東京でSEとして働いていた。しかし、「いつかは飲食店をやってみたい。自分の店を持ちたい」と漠然と思っていたという。そのチャンスは突如として訪れた。

「経営者が集う飲み会で、南三陸で店を出さないかって言われました。そして2014年2月に初めて町に連れてきてもらったんです」

ボランティアで南三陸に来ていた仲間に連れられ、志津川、歌津、そして気仙沼へと足を伸ばした。東日本大震災での被害、人口流出、高齢化…。地元客を頼みにする飲食店を経営するには、いささか条件の悪すぎるような町。

しかし、かさ上げ工事の真っ只中、変わりゆく町を眺めながら

「ここでやったら絶対におもしろい。そう直感で思ったんです」

木造の内装が見えるカジュアルな店内の奥のテーブル席で複数の客が談笑しながら飲食を楽しんでおり、手前のテーブルで腕を組んだ井尻さんが真面目な顔をしてカメラを構えた男性と眼鏡をかけた男性とテーブルを囲んで座っている写真

悲願の開店も、大きな挫折を味わう

それからわずか2ヶ月。会社を退職。本格的に南三陸出店への準備を始めた。さまざまな困難にぶつかりながら、紆余曲折も経て、2014年12月25日に「串カツいじり」がオープンした。

移動販売車にテント、そして中にはコタツ、電気は発電機で、という斬新な店構えは町内でも話題に。しかしオープン後の盛況は長くは続かなかった。

「最初の半年間は本当にお客さんがいなくて。東北の長い冬もあって、『もう無理だ』って何回思ったことか」と話す井尻さん。それでも「とりあえず1年間はやってみないとわからない」と奮起。町内のさまざまなイベントに顔を出したり、営業や仕込み以外の時間を使って漁業や農業のボランティアに参加した。

「お金にならないことはわかっていました。それでも今は人とつながる時間だって。ただ店があれば人が来ると思っていたけれど、そうではなく、付き合いのなかで店に来てくれるんだって気づいたんです」

大きな流木の前に、赤く塗られた流木に白いいペイントで「串カツいじり」と手書きされた看板風のオブジェが棚に飾られている写真

「この店があってよかった」の声がやりがい

怒涛の日々を駆け抜けるなか、気づいたら一人また一人と常連さんが増えていった。サクッとジューシーな串カツのおいしさはもちろん、お客さんの要望に応える形で増えていくサブメニューも好評。そして何よりも明るく気さくな店長、そして日々進化していく店の空間、居心地のよさが地元の若者の心をつかんだ。

「自分の誕生日に、地元の若い子らに誕生日プレゼントをサプライズでもらった。『ここにこの店があってよかった』って言ってくれて。大変なこともたくさんあったけど、そういう声聞くとやってきてよかったなって」

青い皿にうずらの卵や様々な野菜などを使ったたくさんの串カツが山のように盛り付けられている写真

地元の若者とともに音楽フェスを主催!

「店をやっていくなかで、知り合いも増え、なにか町にできることはないだろうかと思うようになって。今は”被災地”だから人が訪れている。けど復興がすすんだときどうなるのか。年に一度でいいから、外から人が集まるような場があって南三陸を好きになってもらうきっかけになったらなって」

それが9月24日(土曜日)に開催される音楽フェス「UTAKKO BURUME」。実行委員長を務める井尻さんは忙しい店の合間をぬって企画準備に奔走する。

そして、イベントに対する想いは、店に集う多くの若者へと向けられる。

「20代など地元の若い人がいないって声をよく耳にするんですけど、店にはいつも集まってくれている。そんな子たちでも『町を自分たちで盛り上げたい』っていうくすぶってる想いはあるんです。けど何をしたらいいかわからないだけで。だから当日の運営ボランティアは地元の若手が中心メンバーとなってやっていこうって。いっしょにイベントをつくっていくことで町を好きになって、いっしょに盛り上げていきたいなって思っています」

NHKスペシャルステージには、夏木マリさん、Kiroroさん、MONKEY MAJIKさん、踊ろうマチルダさん、山寺宏一さん、佐々木李子さんと豪華出演者が決定。屋外エリアでも南三陸の旬を満喫できる飲食店やワークショップ、地元住民を中心としたパフォーマンスなど盛りだくさんの内容。

「今までのイベントとはひと味違ったものになるのではないかと。この町の新しい姿を見せたいなと思います」

近代的なガラス張りの建物の前にスーツ姿の井尻さんが立ち、手をポケットに入れて穏やかに微笑んでいる写真

小さな灯が地元の若者の拠り所に

国道45線沿いに、突如現れた一軒の小さな灯。それが地域の若者の拠り所となり、その灯はだんだんと大きくなっていく。テントから少し進化した店内は、今日も店主の威勢のいい声と、希望に満ちた笑い声であふれている。

インフォメーション

  • 場所:宮城県本吉郡南三陸町歌津字枡沢16
  • 営業時間:17時~23時
  • 定休日:月曜日
  • 連絡先:080-3503-7497(予約も可能)

南三陸音楽フェスティバル「UTAKKO BURUME」

参加者も募集中です!入場無料! 詳しくは下記のホームページをご覧ください。ボランティアも募集しております!

この記事に関するお問い合わせ先

企画課 企画情報係
〒986-0725 宮城県本吉郡南三陸町志津川字沼田101番地
電話:0226-46-1371
ファックス:0226-46-5348
本ページに関するお問い合わせ